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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)8952号 判決 1976年4月15日

原告 学校法人和光学園

右代表者理事 田中清長

右訴訟代理人弁護士 斉藤一好

同 徳満春彦

同 丸山武

右訴訟復代理人弁護士 杉山悦子

被告 東京都

右代表者知事 美濃部亮吉

右指定代理人 鈴木卓

<ほか三名>

主文

被告は、原告に対し、三四万三五〇〇円とこれに対する昭和四四年一一月一一日から支払いずみまで年五分の金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、五三四万三五〇〇円とこれに対する昭和四四年一一月一一日から支払いずみまで年五分の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の地位等

(一) 原告は、昭和九年私立学校法により設立された学校法人で、従来教育基本法及び学校教育法に従いつつ、「子供父母教師三位一体の教育、個性を伸ばし創造性を育てる教育、子供を全面的に発達させる教育、民族、人類の発展への参加をめざす教育」を基本的理念として、高等学校、中学校、小学校、幼稚園を設置していた。そして、原告の設置したこれらの学校は、昭和二八年ユネスコ本部からユネスコ実験校としての指定を受けた。

(二) 更に、原告は、昭和四一年四月一日「教育基本法の精神に則り、学問と芸術の理論と応用とを研究、教授すると共に、豊かな人間性の上に人文的、社会的教養と新時代の知見、技術とが調和し統一した人間の育成をはかり、もって社会の発展と文化の進展に寄与すること」を目的とし、右の目的を少人数教育による教師と学生との間の親密で人間的な関係の確立維持を通じて達成することを基本的な理念に、東京都町田市金井二一六〇番地に和光大学を設置した。

(三) 和光大学の陣容は、人文学部(人間関係学科、文学科、芸術学科)と経済学部(経済学科)の二学部よりなり、教員数約一八五名、職員数約七五名、学生数約二五〇〇名で、六万八〇〇〇平方メートルの構内には、主要施設として事務管理棟、教室棟(A、B、C)及び研究室棟がある。

2(一)  警視庁公安部公安第一課司法警察員警部大橋智(以下大橋警察官という。)は、昭和四四年一一月四日被疑者甲野太郎(以下被疑者甲野という。)に対する兇器準備集合、公務執行妨害、建造物侵入被疑事件について、東京簡易裁判所裁判官木梨節夫に対し次の捜索差押令状及び検証令状(以下一一月四日付捜索差押令状というようにいう。)の請求をし、同裁判官よりそれぞれその発付を受けた。

(1) 一一月四日付捜索差押令状

① 被疑事実

被疑者は、共産主義労働者党(略称共労党)の指導下にあるプロレタリア学生同盟(略称プロ学同)に所属するものであるが、昭和四四年一〇月二一日に行なわれたいわゆる「一〇・二一国際反戦デー」に際し、右共労党、プロ学同がそれぞれ主張する佐藤帝国主義内閣打倒、一一月佐藤訪米実力阻止、街頭大衆反乱による首都制圧、政府中枢攻撃、拠点スト等の闘争に参加し、東京都庁、東京駅などを攻撃目標としたいわゆる街頭実力行動を企画していたところ、

第一  ほか多数と共謀のうえ、前同日午後二時二五分ころ、東京都中央区築地四丁目九番地先市場橋付近において警察部隊に対し、共同して暴行、傷害等を加える目的をもって、多数の火炎びん、鉄平板棒等を所持し、もって多数共同して他人の生命身体財産に対し害を加える目的で兇器を準備し、前記市場橋付近に集合し、

第二  更に、前同日前同時刻ころから同二時二八分ころまでの間、前記同所において、右学生らの規制検挙にあたった警視庁築地警察署部隊(指揮者飯野定吉警視正)及び警視庁第六機動隊(指揮者増田美正警視)が被疑者らの検挙に着手した際、多数共同して前記警察部隊に対し、多数の火炎びんを投擲するなどの暴行を加え、もって右警察部隊の規制、検挙活動などの職務の執行を妨害し、

第三  つづいて、同日午後二時三〇分ころ、東京都中央区築地五丁目三番地東京都中央卸売市場(市場長青木久)通用門から同場内に大挙して故なく侵入し

たものである。

② 差し押えるべき物

(ⅰ) 指令、通達、通信連絡、報告等の文書

(ⅱ) 会議録、議事録、金銭出納簿等の文書

(ⅲ) 闘争の組織、作戦、戦術、編成、並びに逮捕時における心得等に関する文書

(ⅳ) 日誌、機関紙誌、ビラ等の文書及び前記文書の原稿

(ⅴ) 鉄棒(板)、鉄パイプ、ヘルメット、軍手、タオル、旗、石塊類、火炎びん及び火炎びん製造のための原料等

③ 捜索すべき場所

東京都町田市金井二一六〇番地和光大学内研究室棟

(2) 一一月四日付検証令状

①  被疑事実

一一月四日付捜索差押令状の被疑事実に同じ

②  検証すべき場所

東京都町田市金井二一六〇番地和光大学内(ⅰ)研究室棟、(ⅱ)C教室棟、(ⅲ)学内入口付近(事務管理棟前)の校庭、(ⅳ)グランド西側部分

(二) 警視庁公安部公安第一課司法警察員警部粂原次郎(以下粂原警察官という。)らは、昭和四四年一一月九日和光大学内において一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行をした。

(三) しかし、右各令状の執行は、以下に述べるとおり違憲違法なものである。

(1)  右各令状が次のとおり違憲違法であるから、その執行も違憲違法なものとなる。

(ⅰ) まず、右各令状は、以下の諸事由に照らせば、憲法三五条一項の正当な理由を欠いて発付されたものというべきである。

即ち、

a 大橋警察官は、被疑者甲野の前記被疑事実そのものではなく、右被疑事実の約一週間前である昭和四四年一〇月一四日ころに和光大学内で行なわれた武闘訓練の立証のため右各令状の請求をし、その発付を受けた。

b 大橋警察官は、前記差し押えるべき物が和光大学研究室棟内のある特定の研究室に存在することを認めるに足りる状況のあることを認めるべき資料を何ら提出することなく一一月四日付捜索差押令状の請求をし、その発付を受けた(刑事訴訟法二二二条一項、一〇二条二項、刑事訴訟規則一五六条三項)。

c 被疑者甲野は少年であったため東京家庭裁判所により不処分とされたから、同被疑者の被疑事実は軽微であって捜査の必要性は少なかったのに対し、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行により原告が蒙った大学の自治、住居の平穏、学園の名誉に対する被害は甚大であった。

(ⅱ) 右各令状が捜索または検証すべき場所として単に「研究室棟」または「C教室棟」と表示していることは前記のとおりであるが、右の各表示は、捜索または検証すべき場所を特定しているものとはいえず、憲法三五条一項ないし刑事訴訟法二一九条一項に反するものである。即ち、和光大学研究室棟は三階建で六九の研究室があるところ、各研究室は、思想の自由、精神生活の自由の場として極めて重要な意味を有するから憲法三五条一項の住居に該当するものであり、実際上も各教員において研究生活の場として排他的に管理している(各教員は研究室の鍵を保管しており、学長といえども無断で内部に立入ることは許されていない。)。和光大学C教室棟もそれぞれ管理者を異にするサークル室よりなっている。従って、捜索または検証すべき場所は各研究室または各サークル室毎に特定のうえ表示すべきであり、右のような特定の必要性は絶対的なものであって、捜査の必要性があるからといっていやしくも緩和されることがあってはならない。

(2)  右各令状の執行方法の違法性

(ⅰ) 立会権の侵害

a 粂原警察官らは、右各令状の執行に際しては、和光大学が私立大学であってもその実体は国公立大学と何ら異るものではないから公務所に準ずべきものとして、同大学学長梅根悟(以下梅根学長という。)またはこれに代るべきものに通知して立ち会わさねばならないにもかかわらず(刑事訴訟法二二二条一項、一一四条一項)、町田消防署員中村弘及び同関根悦夫(以下中村消防署員というようにいう。)を立ち会わせたにすぎない。

b 仮に和光大学が公務所に準ずべきものでないとしても、粂原警察官らがいきなり中村消防署員ら二名を立会人としたことは、原告の立会権を侵害するものである。即ち、粂原警察官らは、町田警察署を通じ電話で埼玉県鳩ヶ谷市に居住する梅根学長に対し、右各令状を執行するわずか三〇分前である午前七時ころになって通知したにすぎないから、同学長またはこれに代るべき者の立ち会いの機会を事実上奪ったものである。そして、梅根学長は、右の通知を受けた際、予告時間が短く立会人を用意することができない旨を抗議したものの、令状に基づく正当な捜索差押に対しては立会人を立てることにする旨の連合教授会の決定に従い、立会人を立てる意思のあることを表明したものであるから、粂原警察官らは、和光大学側の立会人を積極的に捜す努力をすべきであったのに、何らこれをしなかったものである(むしろ粂原警察官らは、梅根学長の指示により立会いのため急遽和光大学内の職員住宅から同大学事務管理棟まで駈けつけ、待機していた同大学職員石塚泰―以下石塚職員という。―の存在を無視した。)。右のような場合は、刑事訴訟法二二二条一項、一一四条二項の住居主若しくは看守者厄又はこれに代るべき者を立ち会わせることができないとして隣人又は地方公共団体の職員を立ち会わせなければならない場合に該当しなかったものである。

c しかも、警察署と消防署との制度上の緊密性と一体性に照らせば、粂原警察官らが立会人とした中村消防署員らには原告の立場に立って右各令状の執行を監視する自覚も意思もなかったことは明らかであり、結局立会人がいないまま執行がなされたのと同一である。

d 更には、右各令状を執行すべき場所は広大であるし、殊に和光大学研究室棟については、粂原警察官らは四、五名で一班の捜索班を編成し、三階建の研究室棟の各階を同時に捜索したものであるから、二名程度の消防署員では立会人としての職責を果たせるものではなく、この点からも立会人がいないまま執行がされたのと同一である。

e なお、和光大学研究室棟内の各研究室は、それぞれ独立した個室であって、各教員にとって住居に該当することは前記のとおりであるから、そもそも粂原警察官らは、各教員またはこれに代るべき者を立会人とする努力をすべきであったのに、何らこれをしなかった。

(ⅱ) その他の違法性

a 粂原警察官らは、事前の情報収集により和光大学内が平穏な状態(学生らによる大学施設のバリケード封鎖等はなかった。)であることを知り、かつ右各令状の執行時間は日曜日の早朝であるから学生らによる抵抗妨害は予想されなかったにもかかわらず、梅根学長の抗議(同学長は、右各令状を執行する旨の通知を受けた際に、機動隊を伴っての立入りは不要である旨を強く述べたものである。)を無視し、三個中隊(二百数十人)の機動隊員を伴って同大学の中でも思想の自由、精神生活の自由の場として最も重要な研究室棟内の研究室に立入り、机の中などをかきまわしたものである。従って、粂原警察官らの右の行為は過剰警備であって、原告の教育機関としての名誉を害するとともに、警備情報を収集することまたは学問研究を使命とする和光大学関係者を威嚇することを目的とする違法なものといわなければならない。

b 右各令状の執行が開始されたとき、和光大学研究室棟内の研究室及び同大学c教室棟は施錠されていたのであるが、粂原警察官指揮下の警察官は、同大学関係者に対し鍵の提供を求めることなくいきなり施錠個所の扉をこじあけ、更にその後午前八時五分ころになって合鍵が提供されてからもそれを使用しないで施錠個所の扉をこじあけて別表のとおり破壊した。右の行為は、刑事訴訟法二二二条一項、一一一条一項にいう錠をはずし、封を開き、その他必要な処分を逸脱するものであって違法である。

c 粂原警察官指揮下の警察官は、右各令状の捜索または検証すべき場所以外の学生サークル室及び彫刻室に立入った。

d 粂原警察官らは、右各令状を執行している間、捜索すべき場所または検証すべき場所は和光大学内の一部にすぎないのに、同大学関係者の学内立入りを一般的に禁止した。

e 大橋警察官は、石塚職員が右各令状の執行について質問しようとしたところ、同職員が和光大学関係者であることを知りながら同職員に対し暴行を加え、また他の警察官は、同大学学生寮の屋上から右各令状の執行の様子を見ていた同大学学生松本哲司に対し投石した。

f 粂原警察官らは、ライターの止め金を空気銃弾様の金属片と称し、一一月四日付捜索差押令状の差し押えるべき物の記載よりすれば右を差し押えることは許されないにもかかわらず、これを差し押えた。

g 粂原警察官らは、差し押えた物があったのにもかかわらず、和光大学学生部長臨時代行池田廣司(以下池田学生部長臨時代行という。)に対し押収品目録を交付しなかった。刑事訴訟法二二二条一項、一二〇条は、差し押えた物の所有者、所持者若しくは保管者又はこれに代るべき者に対し押収品目録を交付すべきことを要求しているものである。

3(一) 大橋警察官は、昭和四四年一一月九日被疑者不詳者に対する銃砲刀剣類所持等取締法違反被疑事件について、東京簡易裁判所裁判官中川武隆に対し次の捜索差押令状(以下一一月九日付捜索差押令状という。)の請求をし、同裁判官よりその発付を受けた。

① 被疑事実

被疑者は、法定の除外理由がないのに、昭和四四年一〇月上旬ころ、東京都町田市金井二一六〇番地所在和光大学研究室棟内において、玩具けん銃を改造した金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲一丁を所持していたものである。

② 差し押えるべき物

(ⅰ) 改造した玩具けん銃及び弾丸

(ⅱ) 研究室棟の三一九、三二〇、三二一、三一一、三一二、三二二号各室の扉

③  捜索すべき場所

東京都町田市金井二一六〇番地和光大学研究室棟

(二) 大橋警察官らは、昭和四四年一一月一〇日和光大学内において右令状の執行をした。

(三) しかし、右令状の執行は、以下に述べるとおり違憲違法なものである。

(1)  右令状が次のとおり違憲違法であるから、その執行も違憲違法なものとなる。

(ⅰ) まず、右令状は、以下の諸事由に照らせば、憲法三五条一項の正当な理由を欠いて発付されたものというべきである。

即ち、

a 大橋警察官は、被疑者が不詳であるから被疑事実が犯罪として成立するか否かも確かでないのに、右令状の請求をし、その発付を受けた。

b 大橋警察官は、前記差し押えるべき物が和光大学研究室棟内のある特定の研究室に存在することを認めるに足りる状況のあることを認めるべき資料を何ら提出することなく右令状の請求をし、その発付を受けた(刑事訴訟法二二二条一項、一〇二条二項、刑事訴訟規則一五六条三項)。

c その後判明した被疑者は東京地方検察庁により不起訴処分とされたから、同被疑者の被疑事実は軽微であり、しかも大橋警察官は既に一一月四日付捜索差押令状の執行した際和光大学研究室棟内の各研究室をくまなく捜索し、改造された玩具けん銃等のないことを知っていたものであるので、捜査の必要性は少なかったのに対し、一一月九日付捜索差押令状の執行により原告が蒙った大学の自治、住居の平穏、学園の名誉に対する被害は甚大であった。

(ⅱ) 右令状が捜索すべき場所として単に「研究室棟」と表示していることは前記のとおりであるが、右の表示は、捜索すべき場所を特定しているものとはいえず、前記2(三)(ⅰ)(ⅱ)で述べたとおり憲法三五条一項ないし刑事訴訟法二一九条一項に反するものである。

(2)  右令状の執行方法の違法性

(ⅰ) 立会権の侵害

池田学生部長臨時代行は右令状の執行に一応立会ったが、大橋警察官らは、同学生部長臨時代行を和光大学研究室棟内のすべての研究室に立ち会わせて右令状の執行をしたわけではなかった。

(ⅱ) その他の違法性

a 大橋警察官らは、一一月四日付捜索差押令状の執行により既に和光大学研究室棟内の各研究室を捜索したにもかかわらず、一一月九日付捜索差押令状の執行により再び同じ様に捜索したことは過剰な執行であり違法である。

b 大橋警察官らは和光大学研究室棟内の研究室の扉六枚を差し押えたが、右扉は差し押さえの必要性がなかったものであるから、過剰な執行であり違法である。

4 粂原警察官、大橋警察官ら一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状並びに一一月九日付捜索差押令状の執行をした警察官は、被告のために公権力の行使にあたる公務員で、その職務の執行として、故意または過失により右各令状に基づく違憲違法な捜索差押または検証をし、よって原告に対し次のとおりの損害を加えたものであるから、被告は、原告に対し、国家賠償法一条一項に基づき右損害を賠償すべき責がある。

5 原告の蒙った損害

(一) 精神的損害

(1)  原告は、思想の自由、精神生活の自由の場として和光大学の中でも極めて重要であるべき研究室が違法不当に警察権の支配下に置かれたことにより、住居の平穏、学問の自由、大学の自治という基本的権利を侵害された。

(2)  また、原告は従来教育機関として前記1のような特色を有し社会的名声を得ていたものであるが、これが侵害されるに至った。

(3)  大橋警察官らが前記3(三)(2)(ⅱ)bのとおり研究室の扉六枚を差し押えたため、右研究室を使用する教員らは冬期の寒さに耐え所持品保管上の不便不安を感じることを余儀なくされ、研究活動に支障が生じたものであるが、これにより原告自身も精神的苦痛を感じたというべきである。

(4)  以上により原告が蒙った精神的損害に対する慰藉料は少なくとも一〇〇〇万円が相当である。

(三) 物的損害

原告は、2(三)(2)(ⅱ)bのとおり研究室の扉等が破壊されたことにより、その修繕費用として三四万三五〇〇円を支出した。

6 よって、原告は、被告に対し、右損害金の内金五三四万三五〇〇円とこれに対する本件不法行為の後の日である昭和四四年一一月一一日から支払いずみまで民法所定年五分の遅延損害金の支払いを求める。

二 請求原因に対する答弁

1 請求原因1(一)のうち、原告が昭和九年私立学校法により設立された学校法人である事実は認める。

2 同1(二)のうち、原告が昭和四一年四月一日東京都町田市金井二一六〇番地に和光大学を設置した事実は認める。

3 同1(三)の事実は認める。

4 同2(一)の事実は認める。

5 同2(二)の事実は認める。

6(一) 同2(三)については、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行は違憲違法なものではない。

(二) 同2(三)(1)(ⅰ)aの事実は認める。なお、武闘訓練には被疑者甲野も参加していたものであり、大橋警察官の一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の請求は必要かつ合理的であった。

(三) 同2(三)(1)(ⅰ)bの事実は否認する。

(四) 同2(三)(1)(ⅰ)cについては、被疑者甲野が少年であったため東京家庭裁判所により不処分とされた事実は認める。しかし、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行は、特定の具体的な一般犯罪の捜査のため法の定める手続に従ったものであるから、何ら違憲違法の問題の生じる余地はない。そして、右のことは、被疑者甲野に対する捜査の結果、同被疑者が東京家庭裁判所により不処分とされても事情の異るところはない。

(五) 同2(三)(1)(ⅱ)については、捜索または検証すべき場所の表示は可能な限り必要な範囲に限定すべきではあるが、他方捜査の状況如何では右のように限定することが困難な場合もあるから、刑罰法令の適正迅速な適用を図り公共の福祉を維持増進するため、管理権を異にする他の場所と区別される限りはある程度のゆとりやひろがりをもった表示も許されると解すべきであって、本件の場合、和光大学研究室棟及び同大学C教室棟は同大学施設の一部として梅根学長の単一管理権の下にあり(研究室棟内の各研究室がそれぞれ憲法三五条一項の住居に該当するものではない。)、それらを更に限定することはできず、全体を捜索、検証する必要があったものであるから、何ら違憲違法の問題を生じない。

(六) 同2(三)(2)(ⅰ)aについては、粂原警察官らが一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行に際して、中村消防署員及び関根消防署員の二名を立ち合わせた事実は認める。しかし、刑事訴訟法二二二条一項、一一四条一項にいう公務所とは、公務員が本来その職務を行うべき場所、施設を意味し、右条項が公務所を他と区別する理由は、公務上の秘密の保護のため認められている押収拒絶権の適正な行使や公務所における公務の執行そのものを保護するためであるから、和光大学は公務所に準ずべきものではない。

(七) 同2(三)(2)(ⅰ)bについては、粂原警察官らが町田警察署を通じ電話で梅根学長に対し、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行をする旨の通知をしたのは執行開始前の約四〇分前であり、同学長は和光大学内の職員住宅に居住する職員を立ち合わせることができたものである。なお、梅根学長は右の通知を受けた際、立会人を立てることにつき明確な回答をしなかったものであるし(むしろ立会人を立てる意思はなかった。)、粂原警察官らが執行開始約四〇分前になってはじめて通知したのは、昭和四四年四月一三日における令状執行の際に、警察官が学生らから激しい抵抗を受けたからである(その原因は、警察官が梅根学長に対し一時間四〇分前に通知したところ、学生らが事前に察知したためである。)。また、粂原警察官らは、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行開始予定時間の約五分前に和光大学正門付近に到着し、同大学側の立会人を捜すなどの努力をしたが発見できなかったものであり(当日は午前九時から同大学内のグランドでサッカーの試合が予定されており、立会人の発見のためにいつまでも執行開始時間を遅らせることのできない事情があった。)、執行開始後現場にやってきた石塚職員に対し右各令状を示し立会いを求めたが、同職員はこれを拒否したものである。

(八) 同2(三)(2)(ⅰ)cは否認する。

(九) 同2(三)(2)(ⅰ)dのうち、粂原警察官らが四、五名で一班の捜索班を編成し、和光大学研究室棟の各階を同時に捜索した事実は認める。しかし、中村消防署員らは立会人としての職責を十分に果たしえたものである。

(十) 同2(三)(2)(ⅰ)eは争う。

(十一) 同2(三)(2)(ⅱ)aのうち、粂原警察官らが機動隊員を伴って和光大学研究室棟内の研究室に立入った事実は認めるが、その余の事実は否認する。一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状を執行するに際しては、学生らによる執行妨害等不測の事態が予想されたものであるから(本件当時いわゆる過激派学生による集団暴力事件が各所で頻発していたこと、本件当時大学内に警察官が出動する場合、学生らによる激しい抵抗妨害のあることが一般であったこと、和光大学についても警察官が昭和四四年四月一三日に令状執行のため同大学内に立入ったところ、学生らによる激しい抵抗妨害を受けたこと、同年一〇月ころいわゆる過激派学生が同大学研究室棟を占拠していたことがあること、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状を執行する当日は同大学内のグランドで行なわれるサッカーの試合のために多数の学生が集まることが予想されたこと等の諸事情に基づく)、機動隊員を伴っての和光大学内への立入りは必要であった。

(十二) 同2(三)(2)(ⅱ)bのうち、粂原警察官指揮下の警察官が施錠個所の扉をこじあけて別表のとおり破壊(但し、同表の被告の答弁欄中○印を付したもの)した事実及び午前八時五分ころに合鍵が提供された事実は認め、その余の事実は否認する。なお、右の破壊行為は、刑事訴訟法二二二条一項、一一一条一項により許されるものである。

(十三) 同2(三)(2)(ⅱ)cの事実は否認する。

(十四) 同2(三)(2)(ⅱ)dの事実は否認する。

(十五) 同2(三)(2)(ⅱ)eの事実は否認する。

(十六) 同2(三)(2)(ⅱ)fは否認する。

(十七) 同2(三)(2)(ⅱ)gについては、粂原警察官らは、中村消防署員に押収物を点検させ、同消防署員に押収品目録を交付したところ、その後池田学生部長臨時代行が現われたので、同学生部長臨時代行に対しては右押収品目録のコピーを交付し、右押収物と対照させたものである。

7 同3(一)の事実は認める。

8 同3(二)の事実は認める。

9(一) 同3(三)については、一一月九日付捜索差押令状の執行は違憲違法なものではない。

(二) 同3(1)(ⅰ)aについては、被疑者は和光大学の四年生で氏名が不詳であったにすぎず、被疑事実が犯罪として成立することははっきりしていた。

(三) 同3(三)(1)(ⅰ)bの事実は否認する。

(四) 同3(三)(1)(ⅰ)cについては、その後判明した被疑者が東京地方検察庁により不起訴処分とされた事実は認める。しかし、一一月九日付捜索差押令状の執行は、特定の具体的な一般犯罪の捜査のため法の定める手続に従ったものであり、和光大学研究室棟内の各研究室については一一月四日付捜索差押令状の執行により捜索が行なわれているものの、被疑事実及び差し押えるべき物が異るから改めて捜索する必要があったものであり、何ら違憲違法の問題を生じる余地はない。そして、右のことは、その後判明した被疑者に対する捜査の結果、同被疑者が東京地方検察庁により不起訴処分とされても事情の異るところはない。

(五) 同3(三)(1)(ⅱ)に対する答弁は前記6(五)のとおりである。

(六) 同3(三)(2)(ⅰ)については違法性はない。

(七) 同3(三)(2)(ⅱ)aは争う。

(八) 同3(三)(2)(ⅱ)bのうち、大橋警察官らが和光大学研究室棟内の研究室の扉六枚を差し押えた事実は認め、その余は争う。

10 同4のうち、粂原警察官、大橋警察官ら一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状並びに一一月九日付捜索差押令状の執行をした警察官が被告のために公権力の行使にあたる公務員であることを認め、その余は争う。

11 同5の事実は全て争う。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告の地位等について。

1  請求原因1(一)のうち、原告が昭和九年私立学校法により設立された学校法人である事実は当事者間に争いがなく、その余の事実は、≪証拠省略≫によりこれを認めることができる。

2  請求原因1(二)のうち、原告が昭和四一年四月一日東京都町田市金井二一六〇番地に和光大学を設置した事実は当事者間に争いがなく、その余の事実は、≪証拠省略≫によりこれを認めることができる。

3  請求原因1(三)の事実は当事者間に争いがない。

二  一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状とその執行について。

1  請求原因2の(一)及び(二)の各事実は当事者間に争いがない。

2  一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状が憲法三五条一項の正当な理由を欠いて発付されたか否かについて。

(一)  請求原因2(三)(1)(ⅰ)aの事実は当事者間に争いがない。

しかし、他方≪証拠省略≫によれば、被疑者甲野も昭和四四年一〇月一四日ころに和光大学内で行なわれた武闘訓練(鉄パイプをふるっての機動隊への突撃訓練、火炎びんの投擲訓練等)に参加していた事実が認められるのである(右認定を左右するに足りる証拠はない。)。そして、被疑者甲野の前示(二1)の被疑事実と≪証拠省略≫を総合すれば、右武闘訓練は右被疑事実と無関係ではなく、準備的行為ないし予備的行為として密接な関連を有していた事実が認められるのである(右認定を左右するに足りる証拠はない。)から、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の請求は、右被疑事実自体の立証のため、あるいは右被疑事実の組織性、計画性、背景等の情状関係立証のため必要かつ合理的であり、右の請求をいれて右各令状を発付することはもとより許されるところである。

(二)  請求原因2(三)(1)(ⅰ)bについては、≪証拠省略≫を総合すれば、大橋警察官は一一月四日付捜索差押令状の請求をするに際し、東京簡易裁判所裁判官木梨節夫に対し被疑者甲野の供述調書、現行犯人逮捕手続書、関連被疑者らの供述調書、捜査報告書等前示(二1)の差し押えるべき物が和光大学研究室棟内に存在することを認めるに足りる状況のあることを認めるべき資料を提出した事実が認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)。しかし、本件全証拠によっても、大橋警察官が研究室棟のある特定の研究室に右差し押えるべき物が存在することを認めるに足りる状況のあることを認めるべき資料を提出したものとは必ずしも認められないが、右令状が捜索すべき場所として「和光大学研究室棟」と表示していることは前示(二1)のとおりであり、右の表示が捜索すべき場所の特定を欠いているものといえないことは後記判示(二3)のとおりであるから、結局大橋警察官の請求による右令状の発付は何ら違法でないことになる。

(三)  請求原因2(三)(1)(ⅰ)cのうち、被疑者甲野が少年であったため東京家庭裁判所により不処分とされた事実は当事者間に争いがない。しかし、被疑者甲野が不処分になったからといって、直ちに同被疑者の前記被疑事実についての捜査が必要性の少なかったものということはできず、むしろ同被疑者に対する処分を決定するにあたっては事実関係の明確化が必要であったと考えられる。そして、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行のように具体的な犯罪を契機としてその捜査のため令状に基づいて発動する司法警察権は、公安警備情報の収集を目的とする警備警察活動と異なり大学の自治等を侵害する性質のものではないのであって、むしろ法治国家である以上大学も司法警察権の発動を拒否することはできないというべきである。従って、粂原警察官らが右各令状を執行するため和光大学内へ立入ったこと自体が原告に対し何らかの不愉快、不利益を与えたとしても、受忍すべき範囲内のものであって、右各令状の発付が許されなくなるものではない。

(四)  以上のとおりであるから、結局一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状が憲法三五条一項の正当な理由を欠いて発付されたものということはできない。

3  一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の捜索または検証すべき場所の表示が憲法三五条一項ないし刑事訴訟法二一九条一項に反するか否かについて。

≪証拠省略≫を総合すれば次の諸事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  和光大学学則によれば、学長は、同大学の学務を掌理し職員を統轄すると規定されている。

(二)  和光大学研究室棟は三階建で、六九の研究室のほか図書資料室、サロン室、会議室、ボイラー室等よりなる。

(三)  研究室の各教員への割りふりは、教授会で協議のうえ決定された。

(四)  各教員は、研究室を自己の研究またはゼミナールのために使用し、内部には研究資料等を置いている。

(五)  各教員は、和光大学当局より研究室の鍵を貸与され、これを保管しているが、教務課においても各研究室のサブキーを保管し、更に警備員室においてはマスターキーを保管している。

(六)  梅根学長の申入れにより、昭和四四年秋ころ教授会において、学生らによる研究室の夜間使用等に対する善処方が協議され、また同学長は、警備員に対し研究室棟の巡視に力を入れるように指示した。

(七)  連合教授会(人文学部及び経済学部の両教授会で構成)は、昭和四四年三月ころ、警察当局による学内の捜索等については学長の指示を受けた者(通常は学生部長、補充的に職員住宅居住の教職員)がその是非を判断のうえ監視のため立ち会う方針を決定した。

(八)  石塚職員は、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行の際に粂原警察官より研究室の鍵の提供を申込まれたとき、梅根学長の指示をあおぎ、同学長は、同職員に対し警察官にマスターキーを持っていかせるようにと指示した。

右認定の諸事実よりすれば、和光大学学長は、研究室棟をはじめ同大学内の施設全体を包括的に管理しているというべきであって、各教員において研究室棟内の研究室を研究生活の場として自己の専用に使用してはいるものの、そのことにより学長の管理権が排除されるものとはいいがたい。そして、刑事訴訟法二一九条一項が憲法三五条を受けて捜索差押令状または検証令状には捜索または検証すべき場所を表示すべきものとしているのは、警察権等が国民の私生活の場に不当に介入することのないように保障するのを目的としているものと解されるところ、前示(二1)のとおり一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状が学長の管理権に着目して捜索または検証すべき場所を「和光大学研究室棟」と表示していることは、右の目的に十分かなうものと考えられる。けだし、大学は、対外的にはその全体が学長を頂点とする一つの共同体とみることができ、対警察権等の関係では大学施設全体の不可侵性を主張することにより学問の自由、大学の自治を享受することができるからである。もっとも、和光大学研究室棟のように使用者を異にする各別の研究室がある場合は各研究室が学問研究の場として重要であることに着目すれば、研究室棟全体に学長の管理権が及んでいるにしても、学問の自由を保障する憲法二三条の趣旨を尊重して、捜査の状況に照らし可能である限り捜索または検証すべき場所を必要最少限度の研究室に限定する配慮が不可欠である。これを本件についてみるに、≪証拠省略≫を総合すれば、大橋警察官らは、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の請求をする段階で、被疑者甲野とともに逮捕された関連被疑者らの一部からは「昭和四四年一〇月一四日ころプロ学同の使っていたのは三階の二部屋だけである。」旨の供述を得ていたものの、他方「当時相当数のグループが研究室棟に泊り込んでいた。」旨の供述も得ているのであって、必ずしも捜索または検証すべき場所としてある特定の研究室だけに特定することができなかった事実が認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、また本件全証拠によっても、大橋警察官らがそのような場合に研究室棟全体を捜索及び検証する必要があると思料したことについて不合理な点があったとも認められない。してみれば、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の「研究室棟」という表示は、捜索または検証すべき場所を特定しているものといえるのであって、何ら憲法三五条一項ないし刑事訴訟法二一九条一項に反するものではない。

また≪証拠省略≫によれば、和光大学C教室棟はそれぞれ使用者を異にするサークル室よりなっている事実が認められるが、右に判断したとおり、研究室棟に学長の管理権が及び検証すべき場所として「研究室棟」と表示することが許される以上、C教室棟についても学長の管理権が及び検証すべき場所として「C教室棟」と表示することが許されるのはむしろ自明のことであり、本件全証拠によっても、検証すべき場所をある特定のサークル室に限定することが可能であったとは認められないから、一一月四日付検証令状も何ら憲法三五条一項ないし刑事訴訟法二一九条一項に反するものではない。

4  一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行が原告の立会権を侵害したか否かについて。

(一)  請求原因2(三)(2)(ⅰ)aのうち、粂原警察官らが一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行に際して中村消防署員及び関根消防署員の二名を立ち会わせた事実は当事者間に争いがない。しかし、和光大学は刑事訴訟法二二二条一項、一一四条一項の公務所に該当しないことは明らかであるから、粂原警察官らが右各令状を執行するに際し、梅根学長またはこれに代るべき者を立ち会わせなかったとしても、そのことから直ちに原告の立会権を侵害したものということはできない。

(二)  請求原因2(三)(2)(ⅰ)bに関しては、≪証拠省略≫を総合すれば次の諸事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 粂原警察官らは、昭和四四年一一月九日午前七時ころ町田警察署を通じ電話で埼玉県鳩ヶ谷市に居住する梅根学長に対し、同日午前七時三〇分より一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状を執行する旨を通知した。

(2) 粂原警察官らが梅根学長に対し約三〇分前になってはじめて通知したのには、次の諸事情があった。

(ⅰ) 当時、警察が大学内において令状を執行しようとする場合、学生らにより事前に察知され、執行の妨害や証拠湮滅をされることが多く、警察は、右のような事態を避けるため、大学当局に対し令状執行の予定時間を早期に通知することは妥当でないと考えていた。そこで、右の方針に従って、令状執行の三〇分前になって通知したところ、学生らがなお察知して、警察官に対し火炎びんを投擲したり、組織的に証拠湮滅行為をしたことがあった。

(ⅱ) 和光大学についても、警察が昭和四四年四月一三日に令状を執行した際、梅根学長に対し一時間四〇分前に通知したところ、学生らにより察知され、消火器を投げつけるなど強力な妨害を受けたことがあった(その結果、八名の学生が検挙された。)。

(ⅲ) 粂原警察官らは、和光大学が被疑者甲野も所属していたいわゆるプロ学同という組織の拠点となっており、昭和四四年一〇月二一日のいわゆる国際反戦デーのころは、同大学研究室棟に相当数の学生らが寝泊りしていて、簡単なバリケードも築かれているとの情報を入手していた。

(ⅳ) また、粂原警察官らは、和光大学内の学生寮に一〇〇名前後の学生らが居住しており、その一部が令状の執行を妨害することもありうると懸念した。

(ⅴ) 和光大学内には、学内入口から二〇〇メートル前後のところに職員住宅があり、教員も居住していたから、粂原警察官らは、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状を執行する三〇分前に梅根学長に通知するのであっても、和光大学側の立会人が立ち会うことは十分可能であると考えた。

(3) 町田警察署の係官が梅根学長に対し一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状を執行するから和光大学の方で立会人を立ち会わせて欲しいと通知したのに対し、同学長は、右係官に対し右各令状執行の予告時間の短いことに苦情を述べるのみで、立会人を立ち会わせるか否かについてはあいまいな返答に終始した。そこで、右係官は、上司を通じ粂原警察官に対し、梅根学長からは和光大学側の立会人を立ち会わせることに関し応諾を得られなかったと報告した。

(4) 右の報告を受けた粂原警察官らは、午前七時二五分ころ和光大学入口付近に到着し、右入口付近でなお念のため同大学側の立会人が出頭しているかどうかを調べたが、同三〇分になっても遂に右立会人を発見できなかった。そこで、粂原警察官らは、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行の開始を遅らせば、当日午前九時ころより和光大学内のグランドで行なわれるサッカーの試合のために集ってくる学生らとの間で混乱を生じることもありうるとして、同大学当局より立会人を立ち会わせることを拒否される場合に備えて同道していた中村消防署員及び関根消防署員に右各令状を呈示し、その執行を開始した。

(5) 粂原警察官は、石塚職員が執行開始後現場に現われたので(同職員は、前記和光大学内の職員住宅に居住していたのであるが、梅根学長より同大学事務次長長谷川鎗二を通じ警察官に応対するように指示されたものである。)、同職員を執行に立ち会わせることは手続をより公正にするために妥当であると考え、同職員に対し立ち会いを依頼したが、拒否された。

刑事訴訟法二二二条一項、一一四条は、捜索令状や検証令状等を執行するに際しては責任者に対し時間的余裕を置いて通知すべきことを何ら要求するものではない。しかし、本件の場合、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行がされる場所が学問の自由、大学の自治を享受すべき和光大学であることから、時間的余裕を置いた通知が望ましいとしても、右認定の諸事実よりすれば、三〇分前の通知はやむをえなかったものであるし、そもそも和光大学側の立会人が立ち会うことも十分可能な情況であったといえる。そして、同じく右認定の諸事実よりすれば、粂原警察官らが中村消防署員らを立ち会わせたことは、何ら刑事訴訟法二二二条一項、一一四条二項に反するものではない。

(三)  請求原因2(三)(2)(ⅰ)cについては、およそ消防署員が立会人としての適格性を欠くものということはできないし、本件全証拠によっても、中村消防署員らには原告の立場に立って一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行を監視する自覚も意思もなかったものとは認められない。

(四)  請求原因2(三)(2)(ⅰ)dについては、粂原警察官らが四、五名で一班の捜索班を編成し、三階建の和光大学研究室棟の各階を同時に捜索した事実は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すれば、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行については、その執行開始直前に、中村消防署員が同大学研究室棟の立ち会いを、関根消防署員が同大学のc教室棟、グランド及び学内入口付近の立ち会いをそれぞれ分担することが取決められたところ、中村消防署員は各階における捜索に立ち会う意思を有していたにもかかわらず、実際は同消防署員が三階における捜索に立ち会っている間に、一、二階の捜索は終了してしまった事実が認められるのである(右認定を左右するに足りる証拠はない。)。従って、右のことよりすれば、少なくとも研究室棟については、実質的に立会人の立ち会いが不十分なまま捜索が行なわれたものであり、違法である。

(五)  請求原因2(三)(2)(ⅰ)eについては、和光大学研究室棟には全体として同大学学長の管理権が及んでおり、しかも本件の場合、捜索または検証すべき場所として研究室棟内のある特定の研究室だけに限定することができず、研究室棟全体を捜索または検証せざるを得ない事情のあったことは前記判示のとおりであるから、粂原警察官らが各教員またはこれに代るべき者を立会人とする努力をしなかったとしても違法ではない。

5  その他、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行につき違法な点があったか否かについて。

(一)  請求原因2(三)(2)(ⅱ)aのうち、粂原警察官らが機動隊を伴って和光大学研究室棟内の研究室に立入った事実は当事者間に争いがない。しかし、≪証拠省略≫によれば、粂原警察官らは一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状執行当日の午前九時ころから和光大学内のグランドで行なわれるサッカーの試合のために学生らが集ってくるという情報を得ていたものであり、このことと前記二4(二)(2)の(ⅰ)ないし(ⅳ)で認定の諸事実を総合すれば、粂原警察官らが機動隊員を伴って和光大学研究室棟内の研究室に立入ったとしても(なお、≪証拠省略≫によれば、三個中隊二二〇ないし二三〇名の機動隊員のうちの一部が研究室に立入ったものである。)、学生らによる執行妨害を予想し、それに対処するための警備行動として合理的であるというべきである。従って、仮に粂原警察官らの機動隊員を伴っての研究室への立入りが原告の教育機関としての名誉を害することがあるとしても違法ではないし、また本件全証拠によっても、粂原警察官らの右の行為が警備情報を収集することまたは学問研究を使命とする和光大学関係者を威嚇することを目的としたものとは認められない。

(二)  請求原因2(三)2(ⅱ)bについては、≪証拠省略≫を総合すれば次の諸事実が認められ(但し、後記のとおり一部当事者間に争いのない事実がある。)、他に右認定を左右する証拠はない。

(1) 粂原警察官らが昭和四四年一一月九日午前七時三〇分ころ一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行に着手した際、和光大学研究室棟内の研究室の扉及び同大学C教室棟の扉は施錠されていた(但し、施錠されていない研究室も一部あった。)。

(2) 執行の支援にあたった機動隊員の一部は、研究室棟内にはいるや執行指揮官である粂原警察官の了解を得ることなく直ちに、実力で施錠個所の扉をこじあけた。また、c教室棟の施錠個所の扉も同様に実力をもってこじあけた。

(3) 粂原警察官は、執行開始後しばらくして、機動隊員から研究室の扉が施錠されているとの報告を受けたが、直ちにこれに対し施錠個所の扉をこじあけることを一時中止すべき旨の指示は与えなかった。

(4) 執行にあたった警察官のうちのある者は和光大学の警備員に対し研究室のマスターキーを提供するように申入れたが、右警備員が右の申入れに応ずべきか否かの判断をしかねているところに、石塚職員が通りかかり、右の申入れを拒絶した。

(5) 粂原警察官は、午前七時四五分ころ石塚職員を発見し、改めて同職員に対し、午前八時まで執行を中断するからそれまでにマスターキーを提供すべき旨を強力に申入れた。なお、粂原警察官が午前八時までにと時間をきったのは、当日午前九時ころから和光大学内のグランドで行なわれるサッカーの試合のために学生らが集る前に執行を完了したかったためである。

(6) 右の申入れを受けた石塚職員が電話を通じ梅根学長の指示をあおぐために和光大学事務管理棟内の警備室の方へ赴いたので、粂原警察官ははじめて、無線機で機動隊員に対し、午前八時まで施錠されている研究室棟については執行を中断するように指示した。

(7) しかし、午前八時になっても石塚職員からはマスターキーの提供がなかったため、粂原警察官は、伝令役の警察官を警備員室まで遣り、午前八時五分ころになってようやくマスターキーを入手した。

(8) 機動隊員は、午前八時になってもマスターキーの提供がなかったので、粂原警察官の了解を得ることなく直ちに、施錠個所の扉をこじあけた。

(9) 右のような経過をたどって破壊された扉等の個所は別表のとおりである(但し、同表中②―天井の一部を除く―、③―回転窓を除く―、④及び⑨については当事者間に争いがない。)。

ところで、刑事訴訟法二二二条一項、一一一条一項は捜索差押令状の執行については錠をはずすなど必要な処分ができるとするが、右の処分はいずれも所有権の侵害となる行為であるから、当時の具体的情況に照らし、必要かつ妥当な程度、範囲内にとどまるものでなければならない。そこで、これを本件についてみるに、右認定の諸事実よりすれば、当日は午前九時ころから和光大学内グランドで行なわれるサッカーの試合のために程なく学生らが集ってくることが予想されたにしても、機動隊員による施錠個所の扉等の破壊は性急にすぎるというべきであり、また破壊の程度も度をこし慎重さを欠き、違法といわざるを得ない。

(三)  請求原因2(三)(2)(ⅱ)cのうち、≪証拠省略≫によれば、粂原警察官指揮下の警察官が和光大学B教室棟の脇に位置する独立の建物である学生サークル室に立入った事実が認められるが(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、前示(二1)のとおり一一月四日付の捜索差押令状または検証令状には捜索または検証すべき場所として右学生サークル室が表示されていないから、右警察官の右学生サークル室への立入りは違法である。しかし、本件全証拠によっても、粂原警察官指揮下の警察官が彫刻室に立入った事実は認められない。

(四)  請求原因2(三)(2)(ⅱ)dの事実は、本件全証拠によってもこれを認めることができない。

(五)  請求原因2(三)(2)(ⅱ)eの事実(石塚職員に対する暴行等の事実)は、≪証拠省略≫によりこれを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(六)  請求原因2(三)(2)(ⅱ)fのうち、≪証拠省略≫によれば、粂原警察官らが空気銃弾様の金属片を差し押えた事実を認めることができる。ところで、一一月四日付捜索差押令状が差し押えるべき物として「①指令、通達、通信連絡、報告等の文書、②会議録、議事録、金銭出納簿等の文書、③闘争の組織、作戦、戦術、編成並びに逮捕時における心得等に関する文書、④日誌、機関紙誌、ビラ等の文書及び前記文書の原稿、⑤鉄棒(板)、鉄パイプ、ヘルメット、軍手、タオル、旗、石塊類、火炎びん火炎びん製造のための原料等」と表示していることは前示(二1)のとおりであるが、空気銃弾様の金属片は、右の①ないし④のいずれにも該当しないことが明らかであり、⑤についても、そこに挙示の兇器類と形状、用法等の点において著しい差異があるから、これに準ずべきものとはいえず、結局粂原警察官が右の空気銃弾様の金属片を差し押えたことは違法というべきである。

(七)  請求原因2(三)(2)(ⅱ)gについては、≪証拠省略≫によれば、粂原警察官らは、スト実情報と題するビラ、鉄板棒等差し押えるべき物を発見後、押収品目録を作成し、これを立会人となった中村消防署員に交付して一一月四日付捜索差押令状の執行を終了し、その後同警察官のところにやってきた池田学生部長臨時代行の要求に応じ、同学生部長臨時代行に対し右押収品目録のコピーを交付した事実が認められるから(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、刑事訴訟法二二二条一項、一二〇条に反する点があるとはいえない。

三  一一月九日付捜索差押令状とその執行について。

1  請求原因3の(一)及び(二)の各事実は当事者間に争いがない。

2  一一月九日付捜索差押令状が憲法三五条一項の正当な理由を欠いて発付されたか否かについて。

(一)  請求原因3(三)(1)(ⅰ)aについては、≪証拠省略≫を総合すれば、大橋警察官が一一月九日付捜索差押令状の請求をした当時、関係捜査資料から氏名、年齢は不詳であったが、和光大学四年に在学中の男子学生であだ名、人相、特徴等についてはある程度判明していた被疑者が銃砲刀剣類所持等取締法三条各号の除外事由に該当する場合でないのに、和光大学研究室棟内で改造された玩具けん銃(金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲)を所持していたという犯罪事実が一応認められる情況であったものと認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、このような場合には、たとえ被疑者の氏名、年齢が不詳であっても捜査をする必要のあることは明らかであり、刑事訴訟規則一五五条三項により被疑者不詳のまま捜索差押令状の請求することは許されるのである。

(二)  請求原因3(三)(1)(ⅰ)bについては、≪証拠省略≫を総合すれば、大橋警察官は一一月九日付捜索差押令状の請求をするに際し、東京簡易裁判所裁判官中川武隆に対し関連被疑者の供述調書、捜査報告書等差し押えるべき物が和光大学研究室棟内に存在することを認めるに足りる状況のあることを認めるべき資料を提出した事実が認められるから(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、前記二2(二)で判示したところと同じ趣旨により、右令状請求の際の疎明については問題がない。

(三)  請求原因3(三)(1)(ⅰ)cのうち、その後判明した被疑者が東京地方検察庁により不起訴処分とされた事実は当事者間に争いがないが、前記二2(三)で判示したところと同じ趣旨により、一一月九日付捜索差押令状の発付自体が許されなくなるものではない。

(四)  以上のとおりであるから、結局一一月九日付捜索差押令状が憲法三五条一項の正当な理由を欠いて発付されたものということはできない。

3  一一月九日付捜索差押令状が捜索すべき場所を「和光大学研究室棟」と表示していることは前示(三1)のとおりであるところ、前記二3で判示したところと同じ趣旨により、右の表示は憲法三五条一項ないし刑事訴訟法二一九条一項に反するものではない。

4  一一月九日付捜索差押令状の執行が原告の立会権を侵害したか否かについては、≪証拠省略≫によれば、池田学生部長臨時代行は右令状の執行に際して、実際には和光大学研究室棟のうち数個の研究室における捜索にしか立ち会っていない事実が認められるものの、他方≪証拠省略≫を総合すれば、右令状の執行にあたった警察官は大橋警察官ら七、八名(これらの者は、四、五名で一つの捜索班を編成して捜索にあたる。なお、警備等支援にあたった機動隊員は約三〇名であった。)であったのに対し、警察より執行開始の約一時間三〇分前に通知を受けた梅根学長は池田学生部長臨時代行ら数名の者に対し右令状の執行に立ち会うようにと指示し、これらの者は右の指示に従って研究室棟に出頭した事実が認められるのであるから(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、結局原告の立会権が侵害されたものということはできない。

5  その他、一一月九日付捜索差押令状の執行につき違法な点があったか否かについて。

(一)  請求原因3(三)(2)(ⅱ)aについては、≪証拠省略≫を総合すれば、一一月四日付捜索差押令状と一一月九日付捜索差押令状とでは被疑者、被疑事実、差し押えるべき物が相異しており、従って捜索すべき場所が和光大学研究室棟というように同一であっても、右各令状の執行にあたった警察官の捜索の主眼、力点は自ずと異っていた事実が認められるのであるから(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、一一月九日付捜索差押令状の執行が過剰かつ不要で違法なものということはできない。

(二)  請求原因3(三)(2)(ⅱ)bのうち、大橋警察官らが和光大学研究室棟内の研究室の扉六枚を差し押えた事実は当事者間に争いがない。しかし、≪証拠省略≫によれば、被疑者不詳者に対する銃砲刀剣類所持等取締法違反被疑事件に関し差し押えた六枚の扉には弾痕と思われる穴があったのであり、硝煙反応の有無その他科学上の精密な検査をする必要があったものと認められるから(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右の六枚の扉を差し押えたことは捜査の目的からいって必要かつ妥当なものであり、違法ではない。

四  報告の責任原因及び原告の損害について。

1  請求原因4のうち、粂原警察官、大橋警察官ら一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状並びに一一月九日付捜索差押令状の執行をした警察官が被告のために公権力の行使にあたる公務員であることは当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫よりすれば、粂原警察官、大橋警察官らはその職務の執行として右各令状の執行をした事実が認められる。

2  そして、前記(二の2、3、三の2、3)判示のとおり、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状並びに一一月九日付捜索差押令状自体には違憲違法な点はなく、従って右各令状を執行すること自体は許されるものであったが、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行方法において部分的にいくらか違法な点(①研究室棟における中村消防署員の立ち合いが不十分であったこと、②研究室の施錠個所の扉等の破壊が必要かつ妥当な程度を逸脱したこと、③学生サークル室へ立入ったこと、④石塚職員や学生に暴行を加えたこと、⑤空気銃弾様の金属片を差し押えたこと)が部分的にあったものである。

ところで、令状を執行すること自体が適法であっても、その執行方法において個々具体的な違法があり、これにより権利、利益を侵害された者が非財産的損害を蒙ったのであれば、その賠償を求めることができるのはいうまでもないが、本件のように、権利、利益を侵害されたとする者が法人である場合は、一般的に自然人のような精神的苦痛はあり得ず、ただ権利、利益の侵害がひいては法人に対する社会的評価を低下させるに至ったときにのみ、民事的救済の対象になるものと解される。そして、原告の学校法人としての地位に鑑みるとき、令状の執行方法の違法により、原告の主張するように住居の平穏、学問の自由、大学の自治が侵害されたのであれば、原告に対する社会的評価が低下することもあり得る。

そこで、本件につきこれをみるに、一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行方法の違法(右の①ないし⑤)のうち、②、⑤は所有権侵害の問題であり(但し⑤については、そもそも空気銃弾様の金属片の財産的価値は無視し得るものであり、所有権者自体も明らかでない。)、④は暴行を加えられた当該被害者個人の問題にすぎないから、これらの点が原告に対する社会的評価の低下を惹起するものとはいえない。①については、一一月四日付捜索差押令状の執行手続の公正の担保という見地よりすれば必ずしも望ましいものとはいえなかったが、右令状の執行自体が許される以上は、特に①の点自体に起因して、住居の平穏、学問の自由、大学の自治が看過し得ない程に害されるものとは解されず、従ってまた、原告に対する社会的評価が低下するものとはいえない。また、③については、これにより和光大学の住居の平穏、大学の自治が部分的に害されたという面もあるが、原告が一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行自体により受忍すべき住居の平穏、大学の自治に対する制限に比すれば、極めて軽微なものであり、特に③の点に起因して原告に対する社会的評価が低下するものとは解されない。その他本件全証拠によっても、原告の教育機関としての社会的評価が一一月四日付の捜索差押令状及び検証令状の執行を契機として特に低下したものと認むべき事情も認められない。

3  また、前記(三5(二))判示のとおり、大橋警察官らが一一月九日付捜索差押令状の執行として研究室の扉六枚を差し押えたことに違法はないから、右研究室を使用する教員において使用上の不便等を感じたとしても、被告には何らの責もない。

4  しかし、前記(二5(二))判示のとおり、研究室の施錠個所の扉等の破壊は必要かつ妥当な範囲を逸脱する違法なものであり、右の破壊をした機動隊員らには当然故意または過失があるといいうるから、被告はこれによって原告の蒙った物的損害を賠償する責がある。そして、≪証拠省略≫によれば、原告は右の破壊された研究室の扉等の修繕費用として三四万三五〇〇円を支出した事実が認められる。

五  以上の次第で、原告の本訴請求は、研究室の扉等の破壊により蒙った物的損害に対する賠償金として三四万三五〇〇円とこれに対する本件不法行為の後の日である昭和四四年一一月一一日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柏原允 裁判官 小倉顕 向井千杉)

<以下省略>

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